「オルハン・パムクとの対話」と小説『雪』


みなさま、こんにちは。
1ヶ月以上も時間があいてしまいましたが、
今日は以前このブログでも告知をした
イベントオルハン・パムクとの対話』
参加報告をしたいと思います*1


イベント終了後、かなり早いタイミングで、
クロカル超人さんがご自身のブログでこのイベントについて
好意的に取り上げてくださっていました!
楽しんで頂いたようで何よりです。


今日は、イベントで感じた生身のオルハンさんについて、
そして氏の著作『雪』について感想を書いてみたいと思います。


オルハンさんの「ことば」


イベント全体を通して感じたのは
オルハンさんの話す英語のわかりやすさでした。
確かにノンネイティブが話す、難解な表現や構文のない英語でしたが、
だからといって決して浅い内容ではありませんでした。
お話がスーッと、英語力不足の自分の中に入ってくるのを不思議に思いつつ
イベントは進んでいきましたが、話が『雪』に及んだとき、ふと気づきました。
オルハンさんは、実感のこもった言葉を意識的に遣う人なんだな、と。


言葉のもつ概念を整理し、実感に即するところまでパラフレーズする。
誰かの質問を受けるときでも相手の言うことを理解できるまで聞く。


イベント中、「イスラーム」とか「トルコ(人)」といったあいまいな言葉が出てきたとき、
オルハンさんが何度か次のような言い回しを使われたのが印象的でした。


Let me clarify the concept.(そのことばの概念を明確にしましょう。)


何かを指しているようで、実際のところ何も指していないに等しいようなことばは極力避ける。
そんな言葉の遣い方ゆえにオルハンさんの言葉は聴衆に届くのではないかな、などと思った次第です。



小説『雪』について


生のオルハンさんと向き合ったときの印象は、
小説『雪』の印象とも通じているように思います。


雪


登場人物たちはトルコ人にカテゴライズされる人々が主ですが、
それぞれに異なる信仰、信条、思想を持っています。


この作品を読み進めていくと、
トルコ人」は決して一枚岩でないこと、そして更には
自分たちと全く異なるひとたちではないことが
わかるような気がしてきます。


しかし。


一口に「トルコ人」といっても、いろんな人がいるんだな
というような教訓だけで終るのかと思われたこの作品は
それだけでは終りませんでした。


小説の最後、登場人物の1人のこんな言葉が印象的に出てきます。

俺たちについてあんた(≒オルハンさん)が話したことを
読者に信じてほしくないと言いたい。


この小説に書かれていることを簡単に信じるな、なんて
普通はあまり言わないですよね。同じ1冊の本のなかでなら尚更です。


言葉を大切に遣う作家。コミュニケーションを大切にする作家。
読者に思考し続けることを求める作家。
オルハンさんは本当にすごいひとでした。

*1:イベントの報告はJFサポーターズクラブ(JFSC)通信上で行われました。JFSC通信は、サポーターズクラブ会員宛に送付しているニュースレターです。イベントのレポートや海外で行った事業などを盛りだくさんにご紹介しています。